「Open Innovation Night」イベントレポート 1/3

Agorize x ICMG Singaporeのオープンイノベーション責任者が語る、お祭りで終わらせないイノベーションプログラムとは? イベントレポ

 
2015年頃から日本で一大ブームとなってきた「オープンイノベーション」。日本の大企業が様々なプログラムを試行錯誤しつつも、その価値が問い直されている社会において、当事者・伴走者として多くのプログラムを主導してきたイノベーターたちが改めてその真価を探るトークイベントを実施しました。世界でプラットフォームを提供するAgorizeとシンガポールを軸にイノベーションを実践するICMG / ICMG Singaporeが“お祭りで終わらせない”をテーマにオープンイノベーションの「実」のあり方を語りあいます。スピーカーはAgorize Japan COOの吉田錦弘さん、ICMG Pte Ltd ディレクター/ICMG Co., Ltd ディレクター 辻悠佑さん、モデレーターとしてICMGマネージャーの加藤琢朗さん。大企業によるオープンイノベーションの酸いも甘いも知り尽くした三人が、イノベーション実践の実情を語り合います。そこから出てくるイノベーションの姿とは。
 

 

「マーケティングとローカライゼーションへのオープンイノベーション導入の新潮流が出てきています(ICMG辻)」

 
吉田:今回、イベントの大前提としてお伝えしたいのは、改めてとなりますがオープンイノベーションは企業の生き残りをかけた最重要の取組みであるという点です。2000年時点のFORTUNE 500リストから現在までに半分が消え、今後10年で残りの40%も消えつつあると言われている中で、企業はどのように「適応できた種」として勝ち残っていくことができるのか、というストーリーですね。この現代の生存競争には明確な答えがでていて、世界経済フォーラムでも語られた通り、「スピード」を加速させることができるか、という点に尽きます。これまでの時代のように大きな魚が小さな魚を食べるのではなく、早く泳げる魚が遅く泳ぐ魚を食べる時代がやってきています。従来は規模で太刀打ちできなかったはずの企業が、いつの間にか適応の早さだけで勝者となっている、という事実を日本企業はまだまだ自覚しきれていないと思います。
 
 
加藤:スピード感のある海外企業の事例を多数見てきた吉田さんにとって、オープンイノベーションについて日本と海外で決定的に異なるのはどのような点でしょうか。
 
 
吉田:トレンドも加味して申し上げると、日本企業のオープンイノベーションは、経営企画やR&D部門が孤立主導して実施しているように感じますね。技術やアイディアを外から持ってくることを目指す取り組みであるはずなのですが、社内的にはこれら部門の人たちの界隈で閉じてやっていることが多いように感じます。ヨーロッパの場合では、人事やマーケティング部門が連携しながら主導していることが多いです。この連携の差が、全体としてのスピード感の違いにも現れているのではないかと思っています。

 

Agorize Japan COO 吉田錦弘さん
 
 
加藤:人事主導ですか。人事部が担当している日本企業も少なくはないように感じるのですが。
 
 
吉田:人事について誤解のないように言うと、オープンイノベーションプログラムの担当に選ばれた人事部の担当者がプログラムを回すのでは不十分で、本業としての人事業務とプログラムをしっかり組み合わせて活用できていることが必須ですね。オープンイノベーションをすること自体を目的化するのではなく、企業の躍進にとってレバレッジをかける施策になっているかが重要なんです。例えば、人事の至上命題である、「優秀な人材の確保」と掛け合わせることもできます。ロレアルさんはBRANDSTREAMという取り組みを人事主導で何年もやってきているんですが、これは世界中で新商品のアイディアを募るイベントでして、昨年度はなんと4万人からの応募が集まっているそうです。アイディアが採用されれば、ロレアルのインキュベーション施設に入ることもできますし、そこから優秀な人材を社員として迎える仕組みもできています。そしてなによりも、こうした活動を企業の大きな宣伝としてフル活用しているのが素晴らしいですよね。
 
 
:ロレアルさんは本当に面白い事例で、採用の新しい時代を感じさせますよね。日本のオープンイノベーションというと吉田さんのおっしゃったとおり、経営企画やR&D部門の専売特許という雰囲気があるのですが、シンガポールを拠点としている私の視点から見ても、オープンイノベーションはマーケティング部門や人事部門などに広く適用できるポテンシャルがある手法であると実感しています。
 
 
吉田:面白い企業さんだと、社外からアイディアを集めることで、社内人材に煽るように危機感を持たせているところもありますよ。やはりオープンイノベーションの担い手は「人」ですから、「人」を中心にプログラムを回す、ということは改めてお伝えしたいですね。
 
 
加藤:マーケティング部署との連携という点ではいかがでしょうか。
 
 
:マーケティングの事例だと、我々が共に進めているのはキリンさんです。とある技術を用いた商品をアジア展開する際に、キリンさんはマーケティング・ローカライゼーションプランを現地の学生やスタートアップなどから募っています。キリンさんには、当然、マーケティングの専門部隊がいて、独自のマーケティング手法を確立しているわけですが、今回は、オープンイノベーション型の新しいアプローチを実験的に採用し、この手法自体が有効かどうかもテストしています。シンガポールで仕事をしていると、実際には、ヨーロッパ系企業は既にこの新しい手法でのマーケティング・ローカライゼーションを進めていく企業は出てきていますので、アジア参入の新しいトレンド手法といってもいいかもしれませんね。従来型のような市場調査から現地展開へ、という流れをひっくり返して、現地募集型で市場感をつかみながらマーケティングと同時にローカライゼーションもやってしまう、いい戦略だと思います。
 
 
加藤:これまでオープンイノベーションプログラムと直接的に関わりのなかった部署を巻き込むにはどのようにすればよいのでしょうか。
 
 
吉田:従来の既存事業でアプローチできてこなかった人たちにも接点を持ったり、商品を露出できる点はマーケティング部署の本業として大きな価値になると思いますよ。価値の言い換えですね。ある会社さんのケースですが、プログラムを通じて出てきたアイディアを形にしていくにあたって、従来では社としてまったくお付き合いがなくて営業部隊が考えてもみなかったような取引先が見つかったことがあって、実際にそこから商品開発に繋がったんですよ。こうやって、プログラムの価値を連携先部署の具体的な価値として置き換えてあげるリーチ力も大事です。エコシステムが広がっていきますから。
 
 
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